コーヒー豆。後引く苦味
飲み会の次の日はだいたい二日酔いで、眠りも浅く、ベッドから出てもソファで横になってダラダラ半日、下手すりゃそのまま一日中なんてこともざらではないのだが、その日はどこか違っていた。
清々しい朝だなんて思いながらスッキリと起き、いつもは遠慮するお酒の次の日の朝ごはんも美味しく頂いたし、苦味の強めなコーヒーも残さずに飲んだ。さらに休日ということもあり、体調も良好とあらば自然とテンションは上がり調子である。
普段は人見知りな性格から、道など訪ねられぬよう細心の注意を払って伏し目がちで町を歩くのだが、この日は違い、なんでも俺に聞いて来いと、ブラジルまでの道程くらいなら案内してやるよと、そんな気分ではあった。
人間気が大きくなっている時こそ、慎重に行動すべきである。
私のいつも買いに行く、気さくな店主とややテンションが低めな奥さんのやっている喫茶店のコーヒー豆は、程よい苦味とコク、ほのかに感じる酸味のバランスが絶妙なのである。その店の豆の買い置きが無くなり幾日か経ち、久々にあの味を求めて買いに行くと、この日はたまたま周年ということもあり、豆を安く売っていた。なんてラッキーなんだ、早起きは三文の得とはこのことかと、ホクホクした表情で店の門をくぐったのだった。
いつも対応してくれるご主人は喫茶の方で忙しいらしく、呼ぶと奥さんが出てきてくれた。いつもはそのまま豆を買って終わり、奥さんの接客からも、それが最も客としてベストな対応である事は間違いないのであるが、その時はやはり何処かおかしかった。朝起きてから初めて人と接する今が最も細心の注意を払うべきだった。
何を思ったか、周年という事もあり、いつもテンションがローな、おそらくコミュニケーションをそこまで望んでない奥さんに対して出た言葉が、お誕生日おめでとうございます、だった。対する奥さんは、抑揚のほとんどない、あぁ、ありがとうございます。
早々に恥ずかしさと後悔が押し寄せる中、いつもより多く豆を買ったのは、気が大きくなって調子にのっていたからか、私の周年を祝いたいという気持ちか、はたまた奥さんへの懺悔の気持ちかは定かではない。
いつもありがとうの感謝の気持ち、祝いたい気持ち、自分を呪いたい気持ちが見事にブレンドされたほろ苦い1日だった。
苦いのはコーヒーを口にしてからで、豆を買う段階は苦くなくていいんだよと、落ち込みながら反省をし、今夜も月の優しい明かりに包まれて眠るとします。それでは。