夜風の中のウルトラマン
ウルトラマンに変身する時の声はジュワッやデュワッであるが、開いてる窓からどこかの部屋の数人の笑い声に混じって、何度も聞こえてくる豪快なくしゃみがジュワッシなのは、変身の合図なのかどうなのか、変身したいのかしたくないのか、意識してるのかしていないのか、本人に聞かないとわからない。こちらまでスッキリしそうなくしゃみが聞こえて来たのはかれこれ20分程前だろうか。
ベッドに入って、ウトウトし出した頃であって、ウルトラマンに似てるなあとぼんやり考え出すと、眠れなくなってきた。眠れなくなったしウルトラマンにしか聞こえなくなってきた。
私は夜風が好きである。冷めかけのホットミルクのような生ぬるいやつではなく、もっとひんやりとした、冷やしたところてんのようなやつが好きで、今はまだ昼間の気温は高くなるが、夜はクッと冷えることがある。この時期のひんやりとした夜風が好きなのだ。
部屋のテレビも電気も消して、暗闇の中、ひらひらとカーテンの裾を揺らしながら部屋に入ってくる冷たい夜風さえあれば、あとはお金と家族と健康と友達とビール以外は何にもいらない。それだけで十分である。愛は後から付いてくる。
仕事で大きな山が一区切りして、ようやっと憂鬱な明日に頭を抱えず眠ることができるしと、気持ちのいい夜風に吹かれながら気分良くベッドインしたと思っていたのに御勘弁願いたいものである。
一体何時までワイワイジュワッシをやってんだ、おじさん明日も仕事なんだよ、何もしないのよりはマシだろうと、普段なら若者のエネルギュシュな騒ぎにはまあまあ寛容な私も、気持ちの良いまどろみを邪魔されたとなっては、少しくらい頭にきますよと、眩しいバックライトに目をしかめながら時間を確認すると、まだ10時をまわってはいなかった。
そう…ですか。
そっと携帯を裏返しにし、目を閉じて心鎮めて頭の中を無にしようとすると、ジュワッシ、、もう一度最初から、頭の中を無にしてジュワッシ、、もう一度、頭のジュワッシ。もういい加減にしなさいよと、夜風諦め窓を閉めた。
然りとて何度もくしゃみを繰り返しているところをみると、気持ちいいのは音だけで、本人は全然スッキリしちゃあいないんだろうなと思うと、イラっとしてあげるのも少しかわいそうだなと思った、秋を感じる良い塩梅の夜更けでした。それでは。