くるみ割り人形 序章
阿部寛とラモス瑠偉を足して2で割ったような顔をした、 コーラのように黒い男が中二の夏休みの終わりにやって来た。
背が高く筋肉質で、早く走れて誰よりも高く跳べるがバスケやサッカー、野球のような球技が総じて苦手で、運動神経が良いのか悪いのか、判断に悩めるその男の名はくるみである。
くるみの学力は良くもなく悪くもなく平均ぐらい。普段は無口で愛想も良くはなく、友達も少ないが、その風貌からヤンチャ気取りの不良達から一目置かれていた。ケンカが強い。柔道の有段者。カポエラ使いである。高校生に土下座させていたなど、ウワサに尾ひれが付き、いつの間にか周りからは和製松崎(しげる)と呼ばれていた。
私はくるみのことをよく知っている。友達というわけではないが、気づけば私の方がくるみに興味をもっていた。
囁かれている噂のようなことは一つも正しくないし、くるみ割り人形を見ると眉がへの字に曲がり、絵に描いたような悲しい顔をする、繊細な男なのである。中1から中2にかけて急激に15cmも伸びた身長のせいもあり、変化の多い時期に長い夏休みを挟むと、くるみはほとんど別人になっていた。
夏の暑さにやられたからでも私にその気があるからでもなく、こんがりとかりんとうのように日焼けし、白いカッターシャツが苦しそうなくるみがやけに大人びて見えた。続く。