立ち聞きweblog

待ち合わせで相手が遅れてる時とか、何故か眠れない夜とか、通勤や通学の電車とかで流し読みして下さい。

コラム-蜘蛛の糸

今の家に越して間もない頃、ピーナツよりも大きく落花生よりも小さい、アーモンドサイズのクモが出た。今から考えると、新聞か雑誌か無ければ紙類を丸めてスパーンでベランダから隣家とマンションの隙間にポイで済む話である。


だがどうしてか、その時は越して来たばかりの浮ついた気持ちが新築の持ち家とでも勘違いさせたのだろうか、はたまた小さな頃にアニメで見た芥川龍之介の、「蜘蛛の糸」を思い出していたのかはわからないが、スパーンせずに生かして逃すために四苦八苦した。


すぐに逃すことができるよう、まずは、一番近いベランダの窓を全開にした。次にクイックルワイパーを取り出し、蜘蛛を壁際まで追い込んでから、クイックルワイパーを蜘蛛の体に潜り込ませるように差し出して、先っぽに捕まらせるもコロリと落ちて、もう一度捕まらせるもスルリと逃げてを繰り返す蜘蛛に、そんなに我が家が好きなのか、わかるよその気持ちと愛着が湧きかけ、ニックネームを考え始めた矢先、ようやく安定した場所に乗せることができた。またいつ落とすかわからんし、カーペットの隙間やテレビボードの中などに逃げ込まれたら見失う可能性だってある。


怖いものである。アーモンドサイズのクモが我が家に潜んでいるのがわかっていたら夜もおちおち眠れない。右手にキンチョール、左手に丸めた雑誌を離せぬ日々を過ごさなければならんのは、それだけは勘弁いただきたい。


機は熟し時は満ちたが時間はない。タイミングも今しかない。とにかくベランダへ放り投げようと顔を上げると、祈るような表情をした嫁が開けた窓の真ん前で待機。


邪魔。


ためらった瞬間、また蜘蛛がコロリとフローリングに落ち素早く身を隠そうと壁際へ。なぜそこにと問うと、半分泣きそうな声で、だって見たかったから、見届けたかったからと。


我が子の巣立ちを優しく見守るかのような嫁の振る舞いにそれ以上の追求はできなかった。蜘蛛を逃す作戦はどうやら、すっぱいだー ったようです。それでは。