立ち聞きweblog

待ち合わせで相手が遅れてる時とか、何故か眠れない夜とか、通勤や通学の電車とかで流し読みして下さい。

雑記-先住民との後出しジャンケン

とある工場の話。かれこれ数十年以上もその地に工場を構えて木工製品の制作を生業としている。工場の規模としては小学校の体育館くらいか。中心地からは離れていると言ってもそこら一体は民家がギッチギチに建ち並ぶ。空き地はなく、緑も少なく、都会の住宅地という印象を受ける場所だ。

 


木を切る音、釘を打つ音、スプレーで吹き付ける音が早朝から夜遅くまで休まずに数十年も続いていたのは、衰退の一途を辿っていると言わざるを得ない高級家具製作への周辺住人の理解と協力があったから。もしかしたら、街の誇りと思う人もいるかも知れない。現に工場の前で大型トラックに家具や建具を積み込む時には、近所のおじいちゃんおばあちゃんが出てきて嬉しそうに作業中のにいちゃんに話しかけるのをよく見る。

 


何積んでんの?

 


飲食店のカウンターですわ。

 


えらい大きいな。ケガせんように気張りや。

 


おおきに。

 


腕っぷしには自信ありげ、夏でも長袖なのはそういう意味かい、と問いたくなるような強面金髪の若いにーちゃんも近所付き合いを笑顔でこなす。もっとも会社から強めに言われているのか、本当に嬉しいのか分からないが、真意を探ろうとするなんて無粋なことはしない。ただ、このにーちゃんに限らずスタッフ全般、日常的に見られる光景ではある。

 


職人が育つ職人の街らしい、こういう場所は嫌いではないし、今後永きに渡って守るべき文化ではないかと思う。が今、内情はそれどころではないらしい。老舗というにはまだまだ若いが、近畿で業界上位に食い込むだけあり、仕事は選ぶほどに舞い込む。喜び反面、いつまでも続くとは限らないという臆病な面も他社に比べて多く持ち合わせている。仕事があるうちに身を粉にして働くというのが、社員一同の共通した考え。幾度となく経営危機を乗り越えた先代から、若手へと受け継がれた絶対的な「教え」だ。

 


早朝から夜遅くまでがこの工場でのスタイルだったが、最近はこのアイデンティティとも言えるスタイルを貫けなくなった。仕事に生ける精鋭達だ。日本社会で騒がれる労働時間とか労働環境とか、そんなことではないのはあきらか。もっと問題なのは、近所に昨年できたばかりのマンションが問題なのだ。

 


朝から機械の音がうるさくて窓が開けられない。子供の通学にトラックが通るのは危険だ。

 


などの苦情が挙げられた。

 


後から来てそれは勘弁して下さい。完全な後出しジャンケンですやん。

 


眉をへの字にしていたかは知らないが、その地に税を納めるという形で大きく貢献してきた会社役員は、泣きつくように地域の偉い人に抗議したが受け入れられず。朝晩は機械を動かせなくなった。これまで平均して12時間機械を動かして来たのに、これからはきっちり9時間。単純計算で生産量が75パーセントまで下がる。

 


マンション住人の言い分も分からなくはないが、購入前から工場があることは分かっていたはず。先住民から住処を奪い追い出すようなやり方がアマゾンではなく日本のこの時代にあると聞いて愕然とした。見ればそのマンションはなかなかに高級そう。住んでる人の資本はさぞ潤沢なのだろう。