立ち聞きweblog

待ち合わせで相手が遅れてる時とか、何故か眠れない夜とか、通勤や通学の電車とかで流し読みして下さい。

小説的雑記-羨ましい死に方

映画が好きだ。最近とんとご無沙汰だが、映画館も好きだ。まだまだ若くてギラギラネチャネチャしてた頃、映画喫茶をやるのが夢だった。と言っても、夢を持てと言われて何となくぼんやりと考えついた夢で、最後幸せに死ぬにはと考えたら映画喫茶だった。

 


映画を上映するのは30平米ほどのコンクリート打ちっ放しの、防音以外なんの設備も装飾もない無機質な空間に設けられた上映室。夏はエアコンで十分に冷やすが、冬は石油ストーブを2つだけ設置する。肌寒いくらいが眠くならないし、そんなもんでいい。

 


そこに映画鑑賞をする人のためにイージーチェアを10台ほどとコーヒーテーブルをイス1台につき1台置く。出入りは自由。出てすぐの所に3〜4人座れて喫茶スペースとなるカウンターを設置し、オーナー兼マスターはそこでコーヒーを淹れる。食事メニューは二つだけ。ポップコーンとナポリタン。ナポリタンは上映室への持ち込みは遠慮するが、コーヒーとポップコーンは持ち込み可。

 


場末の潰れたパチ屋の隣とかにあり、映画館より神経質にならずに気軽に立ち寄れるが、カップルがデートで使うにはムードが足りず、50オーバーの不倫を楽しむ二人がイチャつくには上品過ぎる。

 


深煎りの苦いコーヒーと2000年代の邦画が面白いんだ、と鼻の穴膨らまし、背伸びして通う小学生にポップコーン半分だけをサービスしてやるのが、老い先短いオーナーの楽しみなのだ。

 


今日は90年代にしてもらうよといつもの生意気な口調で席に着く。あの常連小学生も中学生になった。一丁前に挨拶代りに右手を肩まで挙げて、目を合わせずに1番安いイージーチェアに座る。どうやらそこがお気に入りらしいが、映画の半分も過ぎた頃に、いつも言わずともオーダーが通っているコーヒーとポップコーンがまだな事に気付く。ほかのお客さんの邪魔にならないようにそっとカウンターに向かうと、いつも通りカウンターの向こう側ではヤカンの蓋が踊り、椅子に座ったまま、覚めない眠りにつくオーナーがいたのである。

 

 

みたいな死に方に憧れたこともあった。