雑記-寝起きの現実
ねえ、ちょっと。
肩を揺り動かされて気がつき、空気清浄機のぼんやりとした明かりの中、横の嫁を見ると半身だけ体を起こしてスマホの画面を覗いていた。深夜未明に私を起こすなんて今までで一度もない。誰もいないはずのリビングで物音でもしたか、それともメールで悪い知らせでも受けたか、どちらにせよ良い状況ではなさそうだ。
平和だが物騒な世の中である。我が家は賃貸マンションの一階。バルコニーと外部との境界に塀はあるとは言え、乗り越えられない高さではない。可能性がゼロでないのは重々承知だが、心の準備をするほど危険なわけでもないと思うのだが。もしも、もしも侵入者があるなら、まず嫁子どもの安全を確保するのが優先だ。そのためにも、必然的に私が盾となり、その侵入者と闘わねばならんのだが、コンディションが悪すぎる。寝起き、というのは一番の理由だが、近頃左手人差し指が痛風を予感される痛みに侵されている。まあ、右利きだから良いか、などと悠長なことでも言っていられない。とにかく武器となりそうなものを手元に手繰り寄せたいところだが、あいにく手を広げた範囲には息子のオムツくらいしか見当たらず。
しかし、幾ばくかの案を巡らす間に外からの物音は聴こえてこない。怖がりな嫁が妙に落ち着き払っているところをみると、どうやら侵入者ではないようだ。だとしたら、緊急の連絡を受けたか。身内の誰かに急を要することでもあったのかもしれない。花粉のせいで赤く腫れ上がっていると思われる喉から、おはようではない第一声を発した。
どうしたん。
嫁はそのままスマホを見ながら、寝坊だよ、とだけ伝えてくれた。