立ち聞きweblog

待ち合わせで相手が遅れてる時とか、何故か眠れない夜とか、通勤や通学の電車とかで流し読みして下さい。

恋の始まりと終わり

あの…


聞きなれない声というより、近頃めっきり馴染みのなくなった若い声質は、おそらくは10代後半か余分に見積もっても20代の前半の女子であると想像するには容易かった。恐る恐る発する言葉の中にも純粋な、自分を貫く真っ直ぐな気持ちが含まれていた。将来は学校の先生か公務員か、プロファイリングが出来る様になってきたのは夜のお供に最近ツタヤで借りるようになったドラマのボスの影響からか。


兎にも角にも若い女子は私には関係ないことだしと振り返る事もせず、信号待ちの間にカバンのどこにしまったか見当たらなくなってしまった携帯と家の鍵をがさごそ探っていたのだが、すぐ斜め後ろで、


あの、すみません、


まさかと思って振り返ると、学級委員長と形容するのがしっくりとくる可憐な女子が私に声をかけていた。


結婚した方がモテる場合があると昔聞いたことはあるし、若い女子にとって30代はおそらくおじさんとお兄さんの境界線、高校卒業して一歩社会に足を踏み出した時に大人の魅力に惹かれる女子も少なくはないだろう。


今は夏、もうしばらくすると秋のおとずれであるが、私の心には春がおとずれようとしているようだ。今かまだかと待ちわびていたわけではないが、この人生、3度あると言われるモテ期を1度くらい経験してもバチは当たらないと思っている。モテ期童貞の卒業をまさか炎天下の道端で唐突に、サプライズ的に始まるなんて、神もなかなか粋な計らいをしてくださる。


勇気が必要なことだと思う。意識が遠ざかるほどの炎天下の道端で知らぬお兄さんに声を掛けるのはなかなかの勇者だ。恋は人を狂わせ本人も驚くような行動に出ることがある。見た目が全てではないが、彼女はまず自分から声をかけるタイプではないだろうし、初めての経験にきっと本人も驚いていることだろう。受け止めよう。彼女の想いが例え歪んだものだとしても受け止めよう。私の心の桜の蕾が急速に開き始めたタイミングで彼女が次の一言を発した。


お釣りを忘れてないですか?


手には20円。確かに今しがた火照った体に冷やしを求め、コーラを買ったがこの時期この自販機のコーラは100円である。わざわざ20円のために数十メートル追いかけて来てもらって申し訳ないが、お釣りは私のではないし受け取れない。


始まってもない恋は儚かった。くだらないことを考えているのは夏の暑さのせいで私の頭の中が春日和だからだと思うので、今夜は変な妄想にアキがこないうちに眠ろうと思います。それでは。